ケアマネ朝比奈 第九話

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朝比奈美鈴「ケアセンターさくらの杜」に勤務する若手ケアマネジャー。
まっすぐな性格で、利用者と家族の想いを受け止めようと日々奮闘している。
仕事への情熱と責任感が強く、時に自分を追い込みすぎてしまう一面も。
人の痛みに寄り添う優しさと、信念を貫く強さを併せ持つ女性。 -
真田光杉並区にある介護ショップに勤める福祉用具専門相談員。
利用者の生活に密着した提案に定評があり、冷静かつ現実的な視点を持つ。
表情は穏やかだが、仕事における判断は的確で妥協を許さない。 -
古賀忠司デイケア施設「アイリス」に勤める担当職員。
明るく気さくな性格で、利用者との距離が近く、場の雰囲気を和ませるムードメーカー。
仕事に対しては意外と真面目で、責任感の強さも見せる。
第九話

夜の帳がゆっくりと降りる頃、商店街にはちょうちんの柔らかな灯りが揺れていた。
今日は地域活性化イベントの商店街祭りだった。
香ばしいたこ焼きや焼きそばの匂いと、人々の笑い声が交錯する中、浴衣姿の人々が行き交う。
その商店街祭りを、地域の高齢者の皆さんに楽しんでもらうことを目的に、ボランティアとして歩行に不安のある方に車いすを貸し出し、その介助を行っている。
朝比奈美鈴は、藤色の浴衣に白い帯を締め、要介護の女性を乗せた車いすを押してゆっくりと露店の間を進んでいた。
普段はケアマネージャーとして凛とした立ち居振る舞いの彼女も、今夜はどこか柔らかく、夏の夜に馴染んでいた。

「美鈴ちゃん、やっぱ浴衣似合うねぇ~!」
商店街にある八百屋の顔なじみである山下さんが、手を振って声をかけてきた。
朝比奈美鈴は、少し照れたように笑って、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます、山下さん。」
その傍らで、美鈴が介助する車いすに座る女性が目を細めて言う。
「浴衣姿の美鈴ちゃんを見られるなんて、今日は最高の日だわねぇ」
「もう、そんなこと言って……」
朝比奈は苦笑しながらも、どこか嬉しそうだった。

「朝比奈さん、こちらの露店も美味しそうですよ」
古賀忠司が、にこやかに言いながら、要介護者の男性が座った車いすを押しつつ、朝比奈の隣にぴたりと寄り添う。
白地に紺の柄の浴衣に身を包み、エスコートを申し出る彼の姿は、絵に描いたように涼しげだった。
「本当ですね、美味しそうです、古賀さん」

そう返した朝比奈の声に、同じく要介護の男性が座る車いすを押していた真田は思わず足を止めた。
真田はつぶやいた。「……あの野郎……」
「また、当たり前のように朝比奈さんに近寄ってやがる」
真田の視線は、朝比奈の浴衣姿に向けられていた。彼女のうなじにかかる髪、かすかに香る匂い――心が持っていかれる。

その刹那、美田が声を掛けてきた。美田も女性が座った車いすを押している。
「せっかくの夏祭りなんだから、楽しまなきゃね、真田さん♪」
もともとスタイルが良いので、浴衣姿も美しい。
だが、真田の心は千々に乱れていた。朝比奈の隣には、古賀。
どうすれば、どうすれば朝比奈の隣を奪い返せる?
祭りは進む。金魚すくい、かき氷、射的――。だが、真田の頭の中では「古賀この野郎」がエンドレスでリフレインしていた。

そんなとき、ふと神社のちょうちんが目に入った。
「……そうだ、神社で花火だ。」
真田は線香花火を買いに行った。「車いすの皆さんと、静かに楽しめる場所がいいと思って」と提案した。
「気が利きますね、真田さん」
古賀が、わざとらしい笑みを浮かべて言う。
真田は内心で思った。「……お前を朝比奈さんから離す。」

神社の境内では、蝉の声が遠のき、暗くなっていた。
線香花火のかすかな音が静かに響いていた。
車いすの高齢者たちが小さな炎に目を細め、「昔を思い出すわ」と微笑んだ。
朝比奈が線香花火に火を灯した瞬間、その顔がわずかな光に浮かび上がる。静かな横顔。浴衣の淡い色。真田は思わず見とれた。
パチ、パチ……と小さな火花が落ち、また闇が戻る。

帰り道、真田はついに朝比奈の隣を確保した。
「朝比奈さん……今日は、お疲れさまでした」
朝比奈は視線を逸らしつつも、その頬はほんのりと染まっていた。
真田は、短い時間を噛み締めるように、朝比奈の隣を歩いた。
たった数歩でも、真田には十分だった。線香花火の火のように、儚くとも確かに灯ったその時間を、真田は忘れない。












