Nコラム
移乗介助とは、車いすに乗った利用者をベッドや便座などへ移動させることを指します(その逆も同様です)。「移動介助」と同じように思えますが、移動介助は利用者を居室からトイレ、トイレから浴室へ移すことを指すため、意味が異なることを覚えておきましょう。
自力で移乗できない利用者に対し、介助者が適切な移乗介助を行うことは、利用者の豊かな生活や自立支援に欠かせません。移乗介助は介護の現場で頻繁に行われるため、基本的な動作を身に付けることが重要。この基本原則は「ボディメカニクス」とも呼ばれ、8項目に分かれています。それぞれの項目については次項で詳しく説明していきます。
移乗介助の基本原則は「ボディメカニクス」とも呼ばれ、介助者が利用者を移乗させる際、双方に負担のない方法を物理的、生体的に示しています。その方法は全部で8つあります。
1.介助者の支持基底面を広くする
支持基底面とは、体重や重力によってかかる圧力を感じる身体の表面とその間にできる底面を指します。介助者が足幅を前後・左右に広めに開くと、支持基底面を広く取ることができるため、立位姿勢の安定感を高めることができます。
2.利用者と介助者の重心を近づける
申立の手続きが終わると、家庭裁判所の調査官が申立人と後見人候補者に面談を行います。調査では申立の理由や本人の経歴、財産とともに後見人候補者の経歴も調べます。調査の結果は、本人の家族・親族に書面や電話で通知されます。
3.大きな筋肉を使う
人間には部位によって大小さまざまな筋肉が付いています。移乗する際は腹筋や背筋、大腿四頭筋、大殿筋などの大きな筋肉を同時に使うことで、1つの筋肉にかかる負荷が小さくなり、大きな力で介助することができます。
4.利用者の身体を小さく球体に丸める
ベッドなどの移乗先に接する面を小さくするため、利用者の腕を胸の前で組んだり、膝を曲げたりして、身体をできるかぎり球体に近づけます。このようにすることで力の分散を防ぎ、移乗介助がしやすくなります。
5.介助者の重心を低くし、重心移動で利用者を動かす
介助者が膝を曲げて、腰を落とすと自然に重心が低くなります。これによって姿勢が安定し、腰への負荷も小さくなります。介助者は移乗させる先につまさきを向け、膝の屈伸を使って重心を落とすると、スムーズに移乗させることができます。
6.介助者の身体をねじらない
移乗する際、身体をねじると重心がブレて不安定になり、腰痛の原因にもなります。介助者は足先をあらかじめ移乗先に向けておくと、身体をねじる必要がなくなるため、安定した移乗ができます。
7.押すよりも引いてみる
ベッド上で介助者の身体を左右に移動させるときは、押さずに手前に引くようにしましょう。人間は押す力よりも引く力の方が強いため、介助者を少しの力で動かすことができます。
8.てこの原理を利用する
てこの原理とは力点(力を加える点)、支点(支える点)、作用点(力が働く点)の3点を利用し、小さい力で重いものを動かすことができる仕組みです。介助者の肘や膝などを支点として、利用者を動かすことを意識して移乗させると楽にできます。
「ボディメカニクスの8原則」を理解したところで、介護現場でよく行われる車いすからベッドへの移乗を具体的に解説していきます。
■車いすからベッドへの移乗
①車いすのフットサポートを上げ、レッグサポートを外す
②アームサポートとサイドガードを上げる
③車いすを移乗するベッドに近づけ、車いすのブレーキがかかっているかを確認
④車いすに浅く座ってもらい、足を床につけてもらう
⑤介助者が利用者に密着する
⑥利用者に前傾姿勢をとってもらい、介助者は利用者の肩甲骨を支え、腰を落とす
⑦利用者を前方に誘導しながら臀部を浮かせ、臀部の高さをそのままにしながら介助者が身体を半回転させる
⑧利用者と密着したままの状態でベッドに座らせる
■ベッドから車いすへの移乗
①フットサポート上げ、レッグサポートを外す
②アームサポートとサイドガードを上げる
③車いすをベッドに近づける
④利用者に足を軽く開いてもらい、ベッドに浅く腰かけてもらう
⑤臀部は膝よりも高い位置にし、足は床に付いた状態にする
⑥靴を履いてもらい、肩甲骨を支えるようにして身体を前に出す
⑦前方に誘導しながら臀部を浮かせ、臀部の高さを変えずに介助者が半回転し、車いすに移乗
⑧利用者と密着したまま車いすに座らせ、レッグサポートなどを元に戻す
■片麻痺(左片麻痺)の利用者をベッドから車いすに移乗
①アームレストを上げ、フットレストを外す
②ベッド上の利用者に右手で左手を支えてもらう
③右膝を立ててもらい、左膝は介助者が支えて立てる
④利用者の身体を支えながら、右側に体位変換(*1)し、ベッドに座ってもらう
⑤車いすを利用者の健側(*2)に置く
⑥患側(*3)の膝を介助者の膝で押さえながら、膝折れを予防し、利用者の右手を介助者の肩に回す
⑦左手はブラブラしないように利用者の内側に入れる
⑧介助者は指示基底面をしっかりと取って、移乗する
*1 体位変換……自力で体の向きを変えられない方の体の位置や向きを変える介助のこと
*2 健側(けんそく)……半身に麻痺や障害を負っている場合、障害がない側の身体を指す言葉
*3 患側(かんそく)……半身に麻痺や障害を負っている場合、障害がある側の身体を指す言葉
■肥満の利用者を車いすからベッドに移乗
①利用者の正面にいすを置く
②利用者の身体をなるべく小さくまとめる
③利用者の足を地面につけ、身体を前かがみの状態にする
④介助者は利用者の身体に密着させて抱え、利用者を用意したいすに座らせる
⑤回転しながら体の向きを変え、いすから立ち上がってベッドに移乗する
※介助者よりも利用者のほうが体重が重い場合、一度イスに座らせてワンクッション置くことが大切。車いすに浅く腰かけてもらい、膝を前かがみにすることで移乗しやすくなります。
移乗介助における注意点として、気を付けるべきポイントや安全対策について説明していきます。
■移乗前に車いすを確認
移乗介助を行う前に車いすの状態を確認してください。初心者はついつい移乗介助をすることに集中してしまい、車いすの確認を忘れがちです。ベッドと車いすの高さが合っているかどうか。車いすのブレーキがかかっているか。フットレストが上がっているかなどをしっかりと確認しましょう。これらを怠るとうまく移乗できないばかりか、利用者の転落などの事故につながる可能性があります。また車いすのタイヤの空気圧が正常かどうかなど、車いすの各部位の点検を日常的に行うことで事故を未然に防ぐことができます。
■利用者の体調に気を配る
車いすを常用している利用者は、移乗の際に立ち眩みや身体的な痛みを生じる場合があります。移乗介助の際も利用者の体調に気を配り、適切な声掛けをしましょう。声掛けをすることで利用者を安心させ、利用者と介助者双方の信頼関係を深めることにもつながります。
■利用者と接触する場合
自力で立つことのできない利用者は、そもそも足にうまく力を入れられない方が多いもの。移乗介助の際に利用者を立ち上がらせても体重がかかった瞬間、膝折れなどが発生する可能性もあります。車いすに移乗した際に車いすの部品で利用者に外傷を負わせる事故も多数報告されています。車いすの部品は硬い金属や樹脂でできているため、注意が必要です。またベッドや車いすに利用者を座らせる際は、浅く腰かけてもらうと転落する可能性も高まります。移乗の際に一時的に浅く腰かけることはありますが、その時間を最小限にすることが必要です。
■スタッフ間で利用者の情報を共有
移乗介助は介護の現場で頻繁に行われているため、事故を招きやすく、利用者や介助者のケガにつながる可能性があります。利用者それぞれの特性をスタッフ間で共有し、その利用者にとってどのような移乗方法が最適かを話し合い、内容を全員で共有することが理想です。肥満や片麻痺のある利用者を移乗させる場合は、なるべく2人以上で行えるようにし、介助者の負担軽減に努めることも重要です。
■移乗介助をサポートする福祉用具の活用
移乗介助のポイントとして前項で述べた「ボディメカニクス8原則」や正しい移乗方法以外にも重要なことがあります。それは、利用者の状況に合わせて適切な福祉用具を活用することです。移乗介助に使える福祉用具は、スライディングボードや介助ベルト、移乗用リフトなどがあります。代表的な用具については次項で詳しく述べていきます。
現在、移乗介助用の福祉用具は数多く製品化されています。これらを積極的に活用することで、介助者は身体的な負担を軽減でき、利用者には快適な移乗を提供できます。
移乗用の福祉用具は、利用者や介助者の負担を軽減する大きな味方ですが、正しい使用方法を知っておかないと、思わぬ事故につながる可能性があります。特に移乗用リフトなどは大掛かりな用具になるため、日頃の点検を欠かさず行い、事故を防ぎたいもの。また、福祉用具の正しい使い方ができるよう、導入時には使用するスタッフに向けて研修を実施することも大切です。
介助ベルト
利用者の腰部に装着するベルト。ベルトには複数の持ち手が付いており、介助者が移乗の際に持ち手を使うことで、力が入れやすくなります。
スライディングボード/シート
利用者の身体の下にスライディングボード/シートを敷き、ボード/シートごと利用者を移動させることができます。スライディングボードは主に移乗元(ベッド)と移乗先(車いす)に渡して、その上を利用者の臀部で滑り、移乗を助けます。
移乗用ボード
利用者が臥位(寝ている状態)のときの移乗に用います。表面が滑りやすく、利用者を移乗しやすい作りになっています。取っ手がついたもの、ロール状のシートに芯材を通したものなど、さまざまなタイプがあります。
移乗用リフト
利用者をスリング(吊り具)に座らせ、電動で上下させることで移乗させることができます。天井走行リフトや床走行リフトなど、用途や目的によってさまざまなタイプがあります。利用者を安全・快適に移乗させられるだけでなく、介助者の腰痛予防にも大きな効果を発揮します。
移乗をサポートする福祉用具は多種多様なタイプがありますが、それぞれの介護現場で役立つものを選びたいものです。ただ、種類が多いため、どれを選んでいいのか迷ってしまうこともあります。そのようなときはリースやレンタルを利用してみてはいかがでしょうか? リースやレンタルで使い勝手や使用感などを確認してから購入するという手順を踏めば、安価で確実な導入ができます。
移乗介助は利用者を抱えたり、持ち上げたりすると動作が多く、利用者、介助者双方に負担が大きい身体介護です。双方の負担を軽減しながら安全に移乗介助を行うには、介助の正しい手順やコツを理解しておく必要があります。これまで紹介してきたトピックをおさらいしながら、介護現場に生かしてみてください。移乗介助の技術だけでなく、利用者への声掛けや思いやりも忘れないでください。
1人で移乗介助ができないと判断した場合は、無理をしないことも大切です。介護スタッフに協力してもらったり、移乗用の福祉用具を活用したりして、対応しましょう。そのためには一緒に働く他の介護スタッフと日頃から連携を取り合うことを意識してください。より良い移乗方法を話し合う機会も自然に生まれ、チームワークが強まるはずです。
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